2024年4月からトラックドライバーの残業時間の上限が年960時間に規制されることで、長距離輸送の能力が大幅に低下し現行の物流量を維持できないと懸念されています。これを「物流の2024年問題」といいます。
トラックドライバーは他の産業より所得が1割低く、年間の労働時間が2割長いという過酷な環境にあり、それにメスが入れられた形になります。働き方改革によってドライバーの健康と生活の向上につながる一方で、物流業界の人手不足や運送コストの増加を招く可能性があります。
この問題に対応するため、政府は2023年6月2日に、関係閣僚会議で「物流革新に向けた政策パッケージ」を発表しました。このパッケージには、物流業界のこれまでの常識を見直し、人材の確保・物流量のキープを目的に、物流にかかわる「荷主企業」、「物流事業者」、「一般消費者」が協力しながら、日本の物流を支えていくための環境整備に向けた抜本的・総合的な対策が盛り込まれています。
政策パッケージは、具体的には以下の3つの柱で構成されています。
商慣行の見直しは、経済の持続的な成長と物流業界の健全な発展の基盤を強化する重要な取り組みです。 これは物流事業者と荷主間の取引関係を透明化し、公正な取引を推進することを目指しています。 具体的には次のような改善策が提案されています。
荷主企業に対して、物流負荷を軽減するための義務化や報告義務を設けるとともに、物流事業者との契約条件や運賃水準を適正化することが求められます。また、物流事業者間での情報共有や連携を促進するための法整備や支援策を講じます。
同時に発表された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」には、荷主事業者は物流事業者に対して契約にない荷待ちや荷役作業にかかる時間を、2時間以内にしなければならないといった「2時間ルール」も明記されています。
商慣行についてはこれまでもガイドラインや手引きなどにより働きかけは行われてきましたが、いずれも義務的なものではなく罰則が伴うようなものではありませんでした。今回の政策パッケージでは「規制的措置」という文言が使われており、実際に2024年初旬の法制化が目指されています。
法的な取り決めに基づいた罰則があり得るという点が今回の一番大きなポイントと言えるでしょう。
この取り組みを支えていく「トラックGメン」の設置も大きなポイントです。トラックGメンとは、適正外運賃での配送を要求する等、適正な取引を阻害する疑いのある荷主企業・元請事業者の監視を強化するため2023年7月21日に創設されたものです。
これまでは不適切な取引の是正の仕組みは基本的に相談窓口等に寄せられるものに対応する「受け身」型だったのに対して、「トラックGメン」では運送事業者へ書面を発送して、荷主・元請業者に関する困りごとについて定期的に調査するといった「能動」的な監視の動きがとられるようになり、荷主企業と物流事業者間の適切な取引をバックアップすることを期待されています。
「2024 年問題」が引き起こす物流の停滞は、企業活動に深刻な影響を与える恐れがあります。その回避策として、DX等を利用した物流の効率化と生産性向上が急務となっていますが、どんな方法があるでしょうか。「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」では、以下の施策が提案されています。
物流事業者に対して、ICTやAIなどの先端技術を活用した物流管理や配送最適化を推進するとともに、人材育成や雇用形態多様化の支援が実施されます。 また、インフラ整備や規制緩和などにより、物流モードやルートの多様化や夜間・早朝配送などの時間帯拡大も促進されます。 さらに、モーダルシフトを含む脱炭素化の推進は環境への配慮としても重要です。このような取り組みを基盤とする物流標準化が不可欠となります。
物流の効率化と環境への配慮は、荷主である企業側が意識改革を進めることはもちろん、消費者自身にも求められています。再配達の削減など日常的な行動を見直し、物流業界の効率化と負荷の軽減が実現可能となります。 「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」では、単なる広報活動にとどまらない新たな取組みが必要であるとし以下の施策が提案されています。
荷主企業や一般消費者に対して、物流負荷軽減や環境負荷低減に資する行動変容を促す取り組みです。 その一つとして荷主経営層の意識改革の一環として荷主企業の役員クラスから物流管理者の選任が義務付けられるなどの動きが取られる見込みです。
また物流事業者ではない一般消費者に対しても、インターネットショッピングなどでよく見られる「送料無料」の見直しを後押しするための啓発活動や、 ゆとりを持った配達指定、再配達行為削減のための置き配利用等を広報し、意識改革と行動変容が促されます。
6月に発表された「物流革新に向けた政策パッケージ」を踏まえて、10月6日に政府から「物流革新緊急パッケージ(案)」が新たに表明されました。
6月の政策パッケージの内容から具体的に落とし込まれたものとしては、「物流の効率化」の対策としてモーダルシフトの輸送量を今後10年で現状からの倍増を目指していくというものがあります。 「荷主・消費者の行動変容」対策としては置き配やゆとりのある配達日指定に対してポイントを付与するものなどが挙げられています。
また「商慣行の見直し」としてトラックGメンによる集中監視月間を設定するというものもあります。トラックGメンについてはこの物流革新緊急パッケージ表明前から既に具体的な動きが出ており、トラックGメン発足から2カ月間の「働きかけ」が昨年1年間の 4倍強にあたる120件にのぼるなど早速効果が発揮されています。
置き配のポイント付与先など未定の部分も多く、現状はいまだに「案」という範囲を出ていません。しかし、政府の発表によればこれから2024年末までにより具体的な方策を検討し、2024年初旬には規制的措置が具体化されることになっています。 2024年4月の時間外労働規制適用まで引き続き注視していく必要があると言えるでしょう。
この政策パッケージは、物流の2024年問題への対応だけでなく、カーボンニュートラルへの取り組みや国際競争力の強化など、これからの日本の物流システム全体を革新することを目指しています。 実際に商慣行が改善されることによって、無駄な荷待ち時間が減り効率的な配送ができる、適正な運賃で配送することができるといった、一つ一つの物流事業者にとっても多大なメリットがある取り組みと言えるでしょう。
しかし、その実現には、関係者の意識や行動の変化が不可欠と言えます。実際にトラックGメンは全国で6万社の物流事業者に対して162名しか配属されておらず、到底十分とは言えないのが現状です。この機運を後ろ盾に各物流事業者が自発的に荷主企業と運賃交渉等を実施していくこと、荷主企業を交えて物流の適正化や生産性向上に向けたガイドラインに沿った、具体的な取り組みを早急に進めていく必要があります。一般消費者も物流の現状や課題を理解し、当事者意識を持って柔軟に対応することが求められます。
同時に、この政策パッケージはあくまでも政府による後押しとして、運送事業者各社も労働環境の改善や、人材の確保、機械やITといった設備投資を行い独自の経営改善努力を進める必要もあります。
物流は、私たちの暮らしや経済活動に欠かせない重要なインフラです。しかし、その裏で働くトラックドライバーの労働環境は、長年にわたって改善されてきませんでした。物流の2024年問題は、この状況を変える契機となるとともに、我が国の物流を持続可能なものとするチャンスでもあります。政府が示した政策パッケージが、その実現に向けた一歩となることを期待します。
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