物流業界では2024年4月からトラックドライバーの時間外労働などの規制が厳しくなり、長距離の輸送が困難になることが懸念されています。
民間のシンクタンクの調査では、このまま対策を打たなければ2030年には35%の荷物が運べなくなる可能性があるとされています。
では、どういった対策が有効なのでしょうか? 運送を含む物流各社は、配送方法や労働環境の見直しを行っています。例えばトラックの荷台やコンテナを別のトラックに乗せ換えて目的地まで運ぶ「バケツリレー方式」や、トラックの荷物を中継地点で積み替える「中継方式」と呼ばれる方法などを取り入れています。
これらは長距離輸送を担当するドライバーが途中の物流拠点等で荷物を引き渡し、別のドライバーが引き継ぐという方法で、これにより1人のドライバーが長時間運転することを避けることができます。また、空荷で走る時間を減らし、少しでも多くの荷物を載せることで、効率化や売上向上を図る取り組みもあります。
その他にも以下のような方法があります。
複数の運送会社や荷主が協力して、同じエリアやルートにある荷物をまとめて配送する運送方式です。例えば、共同配送センターなどで荷物の仕分けや積み替えを行ったり、共通のトラックやドライバーを使って荷物を届けたりすることができます。
これにより、トラックの空走や積載率の低下を防いだり、燃料費や人件費などのコスト削減につなげたりすることができます。
トラック以外の交通手段(鉄道・船舶・航空機など)に荷物を移す方式です。例えば従来だと幹線にあたる長距離輸送部分で鉄道や船舶などを利用し、短距離輸送となる地場配送部分ではトラックなどを利用するようにする方法です。
これにより、トラックの過密走行や渋滞を緩和したり、環境負荷や物流コストを低減したりすることができます。
→「運送業が直面する2024年問題とは?時間外労働の上限が960時間に」自動運転技術を活用して、ドライバーの負担を軽減することで人材不足や高齢化に対応することができます。例えば、高速道路などで自動運転モードに切り替えたり、複数のトラックが連結して走行するプラトーン走行を行ったりすることができます。 また、無人のトラックやドローンなどを使って、荷物の配送や積み下ろしを行ったりすることも可能です。長距離輸送やラストワンマイル配送などにおいて、自動運転トラックやバンの導入が期待されていますが、自動運転の普及度はレベル別に異なります。
自動運転技術は、レベル0からレベル5までの6段階に分類されますが、現在はレベル2(部分自動運転)やレベル3(条件付き自動運転)が主流です。 自動運転車はドライバー不足や労働環境の改善、燃費効率や安全性の向上などのメリットがありますが、一方で法制度やインフラ整備、技術的な課題や社会的な受容性などの課題もあります。
2020年4月の改正道路交通法の施行で無人自動運転サービスや高速道路での自動運転などが可能になり、 2021年10月からは高速道路でのトラック隊列走行(後続車無人)の実証実験や社会実装プロジェクトも進められていますが、本格的な普及は2025年以降の見込みとなるなど、レベル4(高度自動運転)やレベル5(完全自動運転)実用化にはまだ時間がかかるというのが現状です。
モーダルシフトや自動運転の普及については関連設備の整備や仕組みづくり、法整備といった前提条件がまだまだ多数あるため、なかなか運送会社が単独で取り組めるものとは言えません。運送会社が単独で取り組めるもの、対策として手を付けやすいものとしては以下の方法があります。
トラックに搭載して運行データを記録、車両の現在地を把握できるデジタコのように、 IT技術を活用して物流の効率化や品質向上を図ることができるツールも多々存在します。
例えば、自動配車システムのようにGPSやAIなどを使って最適な配送ルートや台数を算出したり、荷物の位置情報や配送状況をリアルタイムに把握したりすることができるものや、電子データ交換(EDI)や電子商取引(EC)などを利用して、 受発注や請求書などの業務をペーパーレス化したり、業務間の連携を強化したりすることができるもの等があります。
解決策の一つであるIT化/システム機器の利用は、法整備や仕組みづくりが必要となるモーダルシフトや自動運転とは違い、それぞれの運送会社が独自の判断のみで導入することができるもので、物流業界の課題解決に大きな可能性を秘めています。システム機器とは、情報通信技術や人工知能などを活用した機器やソフトウェアのことで、物流の計画・管理・実行・評価などの各段階で役立つものがあります。
例えば、物流計画では、需要予測や最適ルート探索などをシステム機器で行うことで、輸送効率を高めたり、コストや時間を削減したりすることができます。また、物流管理では、荷物やトラックの位置情報や状況をリアルタイムで把握したり、配送状況を可視化したりすることで、 迅速かつ正確な対応が可能になり、データ分析やフィードバックなどをシステム機器で行うことで、物流サービスの改善や問題発見に役立ちます。
IT化の一つである自動配車システムとは、配車計画作成(受注と車輌の割り当て、経路決定など)をコンピュータが自動で行うシステムです。自動配車システムのメリットは、配車業務が時短されることや、属人的で替えのきかなかった配車マンの業務を平準化し、人的リソースを有効活用できることです。
しかし、自動配車システムを利用する上で注意しなければならない点もあります。
→「配車システムとは?導入前に知っておきたい機能やメリット」受注データが不正確や不完全だと、自動配車結果も信頼できなくなります。
条件やルールは事業者ごとに異なるため、システムに設定する際には細かい検討が必要です。 また、定期的な見直しも必要で、特にパッケージソフトを利用する場合は、自社業務に合っているかの見極めが非常に重要となるため、体験版の利用等、事前の十分な検証が必要です。
コンピュータは配車マンが考慮するあらゆることを再現できないため、ルールだけでは完璧に最適化できません。 また、配送中に事故やトラブルが発生した場合も、人的判断が必要です。
システムによっては操作性や設定方法が難しい場合もあります。メーカーサポートを受けるなどして、正しく使いこなせるようにする必要があります。
システム機器の利用は、物流業界の「2024年問題」に対する有効な解決策の一つですが、それだけでは十分ではありません。システム機器はあくまでツールであり、それを使う人間の意思や判断が重要です。 また、システム機器は物流業界だけでなく、荷主や消費者など関係者全体の協力や理解が必要です。
システム機器の利用は、物流業界の課題解決だけでなく、物流業界の変革や発展にもつながる可能性を秘めています。
自動配車システムの導入はハードルが高いと考えている運送会社には、IT化の第一段階として、デジタコの整備や勤怠システムの導入がいいかもしれません。 正確なドライバーの労働時間を把握することで、残業時間や拘束時間を意識した配車組みが行えるようになります。
また、労働時間が規制されることで長距離輸送が減るなど、運送形態が変わることで会社としてこれまでの売上を維持することが難しくなる可能性もあります。 その際に日々の売上や配送毎の経費が把握でき、ときには荷主との運賃交渉の材料となる資料まで作成できるような基幹システムを導入することも選択肢の一つと言えます。
物流業界は、「2024年問題」によって大きな変化を迫られています。トラックドライバーの労働時間の規制強化は、労働環境や健康保持の観点から必要なものですが、それに伴って輸送量や収入が低下する可能性があります。 この問題に対処するためには、物流各社や荷主企業、国などの関係者が協力して取り組む必要があります。
配送方法や労働環境の見直しや効率化、荷主企業の要求の緩和や改善計画の策定などが重要な対策となります。物流業界は日本経済の重要なインフラであり、安定的かつ効率的な物流網の維持は社会全体の課題です。
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