2023年10月6日に政府から発表された「物流革新緊急パッケージ」内で2024年問題対策の一つとして言及された「サイバーポート」について、一般の方だけではなく物流業界でも業態によっては馴染みの薄い名称かもしれません。今回はサイバーポートの概要や期待される効果、課題や懸念点について詳しく解説いたします。
サイバーポートとは港湾物流分野における紙、電話、メール等で行われている事業者間の港湾物流手続きを電子化することで業務を効率化し、港湾物流全体の生産性向上を図ることを目的として国土交通省港湾局が構築した、下記3分野を一体的に取り扱うプラットフォーム(データ連携基盤)のことです。
民間事業者間の港湾物流手続きを電子化することで業務を効率化し、港湾物流全体の 生産性向上を図ることを目的としています。サイバーポートに蓄積される情報を利活用することや、今後構築されるサイバーポートの港湾管理分野、港湾インフラ分野の情報等とも連携することによって、港湾物流全体の生産性向上や港湾の国際競争力強化が期待されます。
港湾管理者に関連する行政手続きや調査、統計業務の電子化、効率化を図るものです。一連の業務工程を一貫して電子化の上、手続き情報を統計作業に活用するなどのワンスオンリー化を達成することで、関係者の作業負担の軽減や業務の効率化等を図ります。
港湾の計画から整備、維持管理に至るまでの港湾管理者等が保有するインフラ情報を電子化し、一元管理を実現します。計画段階から整備、維持管理、利用の段階に至る港湾及び港湾施設に関する様々な情報を一元的に管理するとともに、データを有効に活用します。
このシステムは港湾物流に関連するすべての事業者が参加することで、取引先とのやり取りを完結させることができるようになります。 サイバーポートを利用することで、書類作成や送信、データ取得、再入力、問合せなどに要する時間が削減できるほか、通常、事業者間で業務のやり方や使用しているシステムが異なる場合には、書類様式や項目、接続方法を統一もしくは変換する必要がありますが、サイバーポートの場合、その必要がなくなるためシステム改修費用を節減することが可能と言われています。
関連各社が独自に導入している基幹システムや業務支援システムはもちろんのこと、これまでも業界共通という位置付けで港湾物流業界には業務効率の改善を目的とした共通仕様のシステムがいくつか存在しています。
NACCS(Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System) は、貿易関連の行政手続きと民間業務をオンラインで行うシステムです。もともとは航空貨物の手続きを行う「Air-NACCS」と海上貨物の手続きを行う「Sea-NACCS」に分かれていたものが2010年に統合されて現在の形となっています。
このシステムは入出港する船舶・航空機および輸出入される貨物について、税関やその他の関係行政機関との手続きおよび関連する民間業務をオンラインで処理することができます。貨物情報の登録や管理、管理統計資料の配信などが可能になり、通関(輸出入申告)や輸入の際の関税の納付などを効率的に処理するために設計されています。
NACCSと連携可!LOGI-Cubeの輸出入管理システム「PORT」
CONPAS(Container Fast Pass)は、2021年4月から運用が開始されたコンテナターミナルのゲート前混雑の解消やコンテナトレーラーのターミナル滞在時間の短縮を図ることで、コンテナ物流の効率化及び生産性向上を実現することを目的としたシステムで、横浜港南本牧コンテナターミナルにおいて本格運用されています。
このシステムはIT技術の活用によりゲート手続きやヤード内荷役作業の効率化を実現し、コンテナ物流における様々な手続きをオンラインで処理することができます。
ここに上げたシステムは一例ですが、サイバーポートを含めたこれらのシステムはそれぞれ異なる側面から港湾物流のデジタル化と効率化を推進しています。ただし、これらは互いに連携し、港湾物流全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を目指しています。
サイバーポートについては国土交通省が2018年に発表した「港湾・海運業のデジタル化ロードマップ」において初めて言及されました。このロードマップではサイバーポートを含む複数のデジタル技術を活用して、2020年までに港湾・海運業界全体のデジタル化を進めることが目標とされていました。
具体的な動きとしては、令和3年度(2021年)にはサイバーポートと個社の物流業務システムとをAPIにより連携させ、「手続き毎に関係各社間でのデータ連携が可能か」、「サイバーポートが実務環境において円滑に利用できるか」等に加えて、サイバーポートの利用効果について検証を行うため、複数事業種別から計25社1組合(16の事業体)が参加した実証実験も行われており、現在も継続して検証が行われています。実証実験の結果としては、サイバーポートの利用により港湾物流手続きが電子化され、書類の作成・送信、データの取得・再入力、問合せ等に要する時間が20~60%程度削減できたことが報告されています。
NACCSとのシステム間直接連携も既に進んでいます。データ連携という面においては物流手続きと通関手続きのワンストップ化が可能となることで、通関手続きにおける入力項目の8割削減が見込まれています。また、より使いやすい仕組みとするための仕様変更も随時行われており、物流手続きとNACCSへの通関手続きに係るデータの相互運用性を高める観点から帳票項目の標準化も図られています。
今後はNACCSの機能改善等に着手しつつ、2024年初旬から本格的な運用に取り掛かる見通しとされています。
これまでの仕組みを新しくしていくことには課題もあります。具体的には下記のようなことが課題として挙げられるでしょう。
国内の貿易関連事業者は数万社に及ぶと言われる中で、サイバーポート導入企業数は計575社(2023年10月時点)とまだまだ不十分であると言えます。業界全体として効率化を図っていくためにはさらに普及を進めていく必要があるでしょう。
複数の共通システムが存在することで、情報の一元化が図られるという利点もありますが、仕組みによってはシステム自体を並行して運用する必要があるため、ある面ではオペレーションが煩雑になってしまうという懸念点もあります。
例えば輸入貨物情報のやり取り等はいまだに紙ベースで行われることが多く、プラットフォームが準備されたとしても情報のやり取りがアナログである限り、劇的な業務効率の改善というのは考えられません。情報の電子化をスムーズに進めるために、そうした慣習の見直しを図っていくことも今後の課題と言えます。
以上のような観点から、「サイバーポート」は港湾物流におけるデジタル化を推進する一方で、その運用には当然ながら課題も伴うと言えます。2024年問題対策の一つとして物流革新緊急パッケージでピックアップされたことをきっかけとして、これらの課題を解決し、より効率的なシステムを実現していくために、これからも引き続き各種議論や実証、改善が求められます。
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